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福岡高等裁判所 昭和52年(く)53号 決定 1977年10月07日

少年 R・I(昭三八・七・九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、抗告申立人K・Fが差し出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。

所論は、要するに、原決定には、処分に著しい不当があつて、重きに過ぎる、というのである。

よつて、本件少年保護事件記録および少年調査記録ならびに当審における事実取調べの結果に基づいて子細に検討すると、本件非行の事実は、原決定が認定しているとおりであつて、少年が、昭和五一年三月二五日から昭和五二年六月八日に至るまでの間に、他の少年数名と共同して、窃盗一五回、恐喝九回、暴力行為一回の触法行為を行なつたというのであつて、右の事実は、少年保護事件記録によつて、十分に肯認し得るところである。

そこで、原決定がなした、少年を教護院に送致する旨の保護処分の必要性について、考察を進めると、少年は、父K・Fと正式に婚姻の届出をした母R・N子との間に、第三子、長男として、福岡市東区○○○において生れ、同胞には長姉K・I子(一七年)次姉R・K子(一五年)があるが、少年の氏は本来父の氏・Kであるべきところ、出生届出の際の手違いから、誤つて母の性、Rを用いて、R・Iと届出られたため、R性を名乗るに至つたもので、嫡出の長男である。

少年は、熟産、正常分娩で、分娩時に異常はなく、二歳のころ小児麻痺に罹患したが、軽度の障害を残しただけで治癒し、家庭では、父母が共に働いていたため、少年に対する監護が十分でなく、放任的であつたうえ、少年の居住地区の社会環境がよくなかつたため、非行性のある少年と接触を始め、その交友を契機として強く影響を受け、○○小学校四年生のとき、早くもその影響が出初めて窃盗の非行に加わつており、爾来同様の非行を反覆した形跡が窺われ、昭和五一年四月○○中学校に進学してからは、他校生徒とも交わるようになつて交友の範囲を広げるとともに、一年生の三学期ころからたびたび家出を繰り返し、怠学も目立ち始め、二年生に進級してからは殆んど学級に姿を見せず、本件非行の大半は家出中に行なわれたものであり、非行の方向も、窃盗、恐喝、暴力行為といつた多方向へ進展し、行為の態様は内的・主観的には、常習化、習癖化の傾向が強く窺われ、外的・客観的には、非行グループとして固定化の傾向が窺われ、少年は、そのグループ中の上級生をも支配するようになつているので、このまま進めば、少年は遠からず非行グループを支配するに至るおそれが十分に窺われるところである。

少年の資質面をみると、知能の面では正常域にあり、性格の面では、基本に外向性が認められ、長所として社交的・活動的で、困難にたじろがない逞しさがあるが、その反面、落ちつきがなく、興味本位で飽き易く、継続した努力ができ難い欠点をもつており、環境の影響から事物に対する知的関心や、年齢相応の正常な問題意識の成育が停滞し、能力の開発の遅れが目立つている現状である。

以上の諸状況にかんがみると、少年の非行性はかなり高進していて常習化・習癖化の域に近く、しかるに、少年は年齢一四歳に達して間がなく(原決定当時)、未だ義務教育の履修課程を終了していないのであつて、知能的にも精神的にも未熟であり、かつ知的能力の開発、性格面の矯正の可能性を具有しているものといい得るので、少年が、事物に対する正しい認識と理解をもつようになり、同時に、自覚ある生活態度を自ら守れるように成長するために、義務教育課程の十分な学習の機会と、秩序と規律のある生活の指導が必要であることはいうまでもないところであつて、保護処分の必要性を否定することはできないものといわねばならない。

しかるに、少年の保護者には、少年を監護する能力が十分でなく、少年の近親者にも少年の保護者同様少年の監護を委託するに適した者が居ないので、在宅のままでは、保護の目的を達成し難く、施設に収容する以外に保護の方法は残されていない。各保護施設のうち何れを選択するかについては、前記のごとき少年の年齢、非行性の態様、程度、資質、義務教育履修の必要、等を考慮すると、教護院を選ぶほかはない。

しかるときは、少年を教護院に送致した原決定の処分は、正当であつて、所論指摘のごとき不当はないので、所論は理由がないものというべく、採用し難い。

よつて、本件抗告は理由がないので、少年法三三条一項により棄却することとし、主文のように決定する。

(裁判長裁判官 安仁屋賢精 裁判官 真庭春夫 鈴木秀夫)

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